防護服はなぜ暑い?
高温下で着用するリスクと暑さ対策

防護服を着用すると暑くなる理由

防護服を着た時に暑いと良く言われます。それはどのような理由なのでしょうか?
人間の体温は、体内の熱を外部へ逃がす熱放散(発汗による水分蒸発、血管拡張、服を脱ぐ等)と、熱を生み出す熱産生(運動、食事、震え等)のバランスで一定温度に保たれています。

例えば、周囲の気温が30℃を超えると人の皮膚は発汗が起こって水分と塩分が失われます。発汗が起こる時、体表面の水分蒸発により体から熱が奪われ体温が下がるのです。

ところで防護服は特定作業(蜂蜜取り、毒ガス・化学物質処理、放射能除染等)を行う場合、有害物質が皮膚に接触したり経皮吸収されることを防ぐ目的で作られました。欧米では危険な作業現場での防護服着用は普通に実施されていますが、日本では防護服が必要とされる現場でも、作業着だけにとどまっているケースも多いです。

そして一般的な防護服の通気性能は低いものが多いため、体の熱や汗を外へ出せないので暑さと不快感を感じることとなります。

高温下で防護服を着用するリスク

熱中症の死亡者数は2016年から2020年の5年間に毎年12~26人で推移し減少傾向は見られません。
そのため厚生労働省は2018~2022年の実績を踏まえて次の5年間は死者数を5%以上減少させる目標を設定しました。

ここで一番注目すべきことは熱中症対策の徹底実施です。
地球温暖化に伴い猛暑による熱中症患者が増加していますが、それと共に建設・製造系作業者の熱中症リスクが大きくなっています。

一般に作業現場における熱中症の原因は、様々な問題が複雑に絡んで発生します。夏場の作業は身体の「熱産生」と「熱放散」のバランスが崩れて体温が上昇します。そのため皮膚血管拡張と血中のナトリウム濃度異常が内臓循環障害や脳温度上昇を引き起こし「熱中症」と呼ばれる症状を呈するのです。

つまり熱中症とは体の周囲が高温になって起こる症状の総称で、「熱けいれん」、「熱失神」、「熱射病」、「熱疲労」などを総括した病名です。

よって熱中症の予防は(1)熱の発生源を除くこと(2)高温多湿の環境で長く作業しないことが大事なポイントとなります。

令和2年度の死傷者数を業種別に分析すると、死傷者数は建設業、製造業の2つが業界全体の4割を占めています。また死亡者数に絞ると製造業、建設業、清掃・屠畜業の順番となります。

主な熱中症の重症事例を確認すると、「休ませて様子を見ていたが容態急変」、「倒れているところを発見」など、容態管理が行き届かない例や、病院への救急搬送が遅れた事例が見受けられました。

そのため、令和3年度の重点施策として厚生労働省は労災防止団体と連携し「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を開始しました。

この施策の全容は、次のようになります。

  • WBGT*1値の把握
  • WBGT値に準じた作業計画の作成
  • WBGT値を下げる設備(屋根の設置、通風・冷房等)の確保
  • 通気性の良い作業着・防護服や身体を冷却する機能をもつ服の準備
  • 熱中症対策の教育(指示文書、リーフレット配布や一部動画によるオンライン教育)
  • 熱中症予防管理者の設置
  • 熱中症患者発生時の対応手順を準備して周知

特に、2011年東京電力・福島第一原発で発生した「廃炉作業中の熱中症多発」は大きな社会問題を提起しました。その原因は、通気性の悪い防護服と高温下で働く作業従事者の労働環境です。この年夏場の防護服作業で、43人が熱中症の症状を訴えました。

東京電力はその暑さ対策として(1)保冷剤入りベストの使用(2)給水所の設置(3)気温の高い昼間を避け夕方と夜間に作業を移行(4)作業休憩時の水分、塩分補給(5)WBGT表示器の設置と測定(6)WBGT25℃以上では作業負担に応じた実作業時間を設定しました。
(注*1:WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)は湿度や照り返しと気温を考慮した暑さ指数です。)

防護服を着用する際の暑さ対策

防護服内の汗は、服の中から外へなかなか蒸発放散することができません。
この原因は服の通気性の問題ですが、暑さ対策としては次の2つを実施する必要があります。

  • 体自身を冷やす対策
  • 体の熱を外部へ逃がす対策

があり、このような対応ができる商品がいろいろ開発されています。

体を冷やす対策

  1. 冷却ベスト
    保冷剤を2つまたは4つ入れたベストで体を冷やし、あらゆる作業を快適にします。
  2. 冷却マスク
    熱中症対策として保冷剤を入れたマスクの使用が推奨されています。持続時間は約1時間程度となります。
  3. 冷却手袋
    冷却用ゲルパックを使用したタイプと特殊繊維に水を含ませたタイプがあります。いずれも防護服と組み合わせたタイプではありませんので、防護服着用前に体を冷やす目的で使用します。
  4. アームクーラー
    特殊繊維に水を含ませて使用するタイプです。防護服と組み合わせて使用はできませんが、防護服着用前に体を冷やすことが可能です。
  5. 冷却ズボン
    コンパクトタイプの送風機を使用して、ズボンの中を快適に保つ装置です。クリップ等で送風機を取り付けるタイプとズボン自体に送付機が付くタイプがあります。
  6. 防護服用吸汗速乾インナー
    高い吸汗・速乾性能の持つ材料で作られたインナーシャツにて快適な作業が可能です。

体の熱を外部に逃がす対策
空気や水蒸気を外部に逃がす素材とその構造

防護服の素材は一つの素材または数種類の素材を挟み込むタイプと素材表面に薄いフィルム素材を貼り付けるタイプがあります。SMSと呼ばれバリア性を高めるために同一素材でも繊維構造を変えて3層としているものもあります。汚れや粉塵に対するバリア性、耐水性、通気性、透湿性は、素材と構造毎にその特長が異なりますので必要な性能から最適なものを選択しましょう。

  1. 単層不織布タイプ
    ポリプロピレン製のスパンボンド素材が一般的です。繊維間にすき間が非常に多いため、粉じんや液体などの浸透に対するバリア性能は低いですが、通気性に優れており安価です。軽微な汚れ防止に適しています。
  2. SMS不織布タイプ
    ポリプロピレン製のスパンボンド、メルトブロー、スパンボンドの3層構造素材が一般的です。粉じんや液体などの浸透に対し一定のバリア性能を持ちながら、通気性があるため熱がこもりにくく、肌触りが良く、摩耗にも強いのが特徴です。化学防護服素材として使用されています。
  3. 多孔質フィルムラミネート(SF・SFS)及び単層ポリオレフィン不織布タイプ
    多孔質フィルムラミネート(SF)は、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布に薄い多孔質フィルムをラミネートした素材です。また、SFSはスパンボンド、フィルム、スパンボンドの3層構造です。ポリオレフィン不織布は高密度ポリエチレン製が一般的です。それぞれ粉じんや液体などの浸透に対し高いバリア性能を持ちますが、通気性が低いため熱がこもりやすいのが特徴です。化学防護服として使用されています。SFSおよびポリオレフィン不織布は摩耗にも強いです。

防護服の今後の動向

アスベスト除去や粉塵がある現場での作業、ウレタン吹き付け、放射能除染等の特殊作業で防護服ニーズはさらに高まっています。そして作業従事者の健康を守るため様々な防護服が生み出されています。

また、防護服自体の種類が増えるだけでなくその関連商品(フェースシールド、ゴーグル、マスク、ヘルメット、手袋等)と組合わせて特集が組まれるほど保護具全体の市場は活性化しています。そして新着情報やおすすめ商品はネット検索で簡単に探すことが可能になり簡単に購入もできるようになりました。

最近では医療用や放射能除染用の他に、レーザー加工作業時に体を守る新しい防護服が発売され注目を集めています。
この防護服はレンタルでも使用可能であり非常に便利なサービスです。
このように医療用、放射能除染等に限らず、種々の用途で防護服とその関連製品は増え続けており今後の動向が気になるところです。


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