防護服とは?
着用する目的と種類、作業現場での使用例

防護服とは

防護服は、酸アルカリ成分や化学薬品、その他危険物質などから人体を守るために、身体全体、または一部を覆う衣服を指します。その目的は、危険物質の透過や浸透を防止することです。また、最近では、危険物だけでなく放射線のばく露防護やウイルス感染防止する目的でも使用されています。

テレビ・新聞等のマスメディアで報道された防護服の事例をここに紹介します。

  1. 1995年3月オウム真理教による地下鉄サリン事件や、山梨県上九一色村(当時)での強制捜査時に、自衛隊員や警察官などが猛毒神経ガス「サリン」防護のために身体全体を覆った防護服を着用しました。
  2. 2011年3月東京電力・ 福島第一原発事故の際には、復旧や除染作業にあたった作業員たちは粒子状放射性物質によるばく露を防ぐための防護服を着用しました。
  3. 2020年1月に発生した新型コロナウィルス感染症に感染した、「ダイヤモンドプリンセス号」の旅客を医療支援する為、自衛隊は感染防護のため防護服を着用して対応を行いました。
  4. 高病原性鳥インフルエンザに確認された養鶏場のニワトリは、防護服を着用した作業員により殺処分とされました。
  5. アスベストを使用した建造物の解体作業では、作業員が専用の防護服を着用して作業を実施しました。

その他の例では、ダイオキシンが発生する焼却炉の点検作業やPCB処理について防護服の着用が報告されています。また、特殊な塗料の作業や、農薬散布作業でも防護服は使用されています。

防護服の開発史

1967年米国で高密度ポリエチレン製繊維を使用したフラッシュスパン紡糸法の不織布で化学防護服が開発されました。この防護服の性能は軽量でありながら、耐久性と通気性があり、さらに耐水性、耐摩耗性、細菌防護に優れたものであるため、様々な業界で多様な用途に使用されました。そして、使い捨て式防護服の素材としても大量に使用されました。

日本では、1970年代初めにこの防護服が紹介されましたが、当時は化学防護服を使用する意識が低く放射性粉じんの防護等の特殊作業に使用が限定されていました。ところが1980年後半に入るとアスベストの有害性が広く知られるようになり、アスベストを含有した建物の解体時には防護服着用の行政指導が行われました。その際、アスベストの除去作業に多くの不織布製防護服が使用されました。また、その素材はフラシュスパン紡糸法の不織布だけでなく、SMS(スパンボンド・メルトブロー・スパンボンド)の3層構造素材も採用されました。

米国ではさらに防護性能が向上したラミネート素材やコーティング素材が開発され、1993年に米国EPA基準レベルAの最高防御レベルをクリアした防護服が日本に紹介されました。そして、1995年の地下鉄サリン事件をきっかけにその導入配備が進展しました。
その後、ダイオキシン問題、SARS(重症急性呼吸器症候群)の発生、鳥インフルエンザの発生、アスベストによる健康被害の広がりなどにより不織布製防護服の需要は膨れ上がりました。

その後、防護服装着時に生じる服内にこもる熱ストレスを解決するための様々な改善が施され、現在透湿性フィルムと不織布を組み合わせた透湿性が高い仕様の製品や通気性の高い不織布製の製品が次々と発表されています。

防護服と作業服の違い

防護服はJIS規格 T8115において、「酸、アルカリ、有機薬品、その他の気体及び液体並びに粒子状の化学物質を取り扱う作業に従事するときに着用し、化学物質の透過及び/又は浸透の防止を目的として使用する防護服」と定義されています。それに対して、作業服は身体につく汚れの付着防止が目的で、製造工場や建設作業現場で使用されてきました。そのため危険な物質から作業者を守る有効な機能は備わっていません。米国やヨーロッパでは危険な作業現場は防護服着用が当たり前ですが、日本では防護服が必要な作業でも、未だに作業服で作業が行われるケースがあるのです。

防護服を着用する目的

防護服を着用する目的は、様々なハザードに対して作業者の身体を守ることです。その代表的なハザードは一般に次のように分類されています。

ハザードの種類

  1. 皮膚や身体に危険な酸、アルカリ、化学薬品、粉じん等の有害物質
  2. 生物学的に危険な微生物やウィルス、細菌など
  3. 高温、高熱、火炎、電気火花など
  4. ナイフ等の鋭利な刃物による突き刺し(貫通)、高速飛散物
  5. 原子炉建屋や放射性汚染域から発生する放射線
  6. 電気配線工事よる感電、静電気によるスパーク
  7. 寒冷地や冷凍作業での寒さ
  8. 危険作業時の視認性の弱さ

作業者が担う労働環境はいろいろなハザードが隠れています。これらのハザードから身体を保護するためには、適切な防護服を選択して、身に付けなければなりません。

この場合のハザードは、アスベスト等の粉じん、有機溶剤の化学物質と、細菌、ウィルスや高熱や炎、突き刺す恐れがある鋭利な刃物、放射性物質、高電圧、冷却エアー等を指します。

ところが作業管理者や作業担当者は、これらのハザードや防護服に対する正しい知識が不十分な場合、ハザードに合致する防護服を選べないばかりか、誤った使い方で身体に障害を起してしまいます。また二次災害としては汚染された防護服をそのまま作業場外へ持ち出し、当事者以外の周囲のメンバーがハザードにばく露することも考えられます。

そのため作業時は周囲環境に潜むハザードを調査し防護服の種類を見定めて、正しい使用方法や着脱方法を実施しなければなりません。

防護服の種類

防護服は、ハザードの種類により身体を防護する服の種類が異なります。そのため作業環境の様々なハザードに合わせて適切な防護服を使用する必要があります。

具体的な防護服の種類

  1. 化学防護服
    毒ガス等の有毒ガスや危険な酸、アルカリ、有機溶剤の透過、浸透を防ぐ目的で作られた気密服や密閉服です。これらは身体に危険な液体、ガス、エアロゾル、粉じんなどが身体に付着したり経皮吸収するのを防ぎます。JIS T8115では、対象の危険物質や化学防護服の構造に応じて、タイプが分かれており、そのタイプ毎に要求性能が規定されています。そのため化学物質を取り扱う事業場ではJIS規格認証品または適合した製品を使用する事が求められています。
    なお、最新の防護服の特長は、衣服内の蒸れを防ぐためSMSと呼ばれる3層構造の不織布を使用し高い通気性と防水性を有しています。
  2. バイオハザード対策用防護服
    生物的危険物質(ヒトに危害を及ぼす病原体及び生物由来物質)への暴露又は接触の危険から作業者を防護するための防護服です。生物学や医学の研究現場で使うバイオハザードという言葉は、「bio-(生物の)」+「hazard(危険)」という組合せから、生物に関する危険性を示します。翻訳すると「生物学的危害」、または生物によって引き起こされる災害を指して「生物災害」と呼ばれています。例えば、細菌やウイルスなどの研究所の中で取り扱いを間違えた場合に実験担当者への感染が起こるケースが想定されています。その危険な物質に対して高い防護性能(バリア性能)をもつ防護服となります。
  3. 熱および火災に対処する防護服
    製鉄業界の製錬所などで働く作業者は、高い輻射熱や高温溶融金属の飛散に晒されています。溶けた鉄の温度は1600℃前後です。
    そのため熱防護専用の防護服は作業の快適さと軽さも兼ね備えながら、輻射熱や対流熱対応、並びに突発的な溶融金属の飛び散り対策を行います。
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  4. 機械的な衝撃に対処する防護服
    • チェンソー使用現場ではチェンソーの刃が頻繁に近づく身体の部位は下半身の大腿部や膝下となります。そのため、この作業の防護服にはこの部位を保護するために生地内部に特殊な防護繊維が封入されています。
    • 交番勤務の警察官は、刃物による攻撃から身を守るために「耐刀防護衣」と呼ばれる防護繊維や金属板を生地内部に入れた防護服を装着しています。
  5. 放射性物質を取り扱うための防護服
    放射線を帯びた粉じん(以下、放射性粉じん)が身体の肌表面への付着することを防止すれば、身体内部への被ばくリスクを最小限に抑えることができます。
    この防護服は放射性粉じんによる 2 次汚染を最小限にするため、一般的に「使い捨て」で使用します。 身体を覆う部分が多いほど防護力が高まりますので、フードを付けて頭から足先まで全身を覆い「衣類」や「髪」を汚染から守ります。
  6. 感電を防止する防護服
    低圧電気回路や高圧電気回路において活線作業や活線近接作業に従事する場合に使用する防護服です。この着用により工事作業者の感電を防止します。
  7. 防寒対策のための防護服
    外気温がマイナス温度まで下がる地域や特殊な場所で「着用者の体を冷やさないよう」にする防護服です。
  8. 周囲からの視認性向上をはかる防護服
    空港、一般道路、高速道路、鉄道での各種作業時に車両・建機などの移動体による接触・衝突事故の防止が求められます。周囲の環境で見えにく状況(夜間、豪雨、大雪等)でも作業者がよく視認できるような防護服となります。
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なお、このような特定のハザードに対する防護服の他に簡易的な価格重視の使い捨てつなぎ服やフード付き上下(ジャンパー・ズボン)セットもネット上で注文できるようになっています。用途は清掃作業や異物混入防止、虫よけ対策になります。袖口、手首やフード部にゴムが有り、ある程度の密封性を確保は可能です。

防護服が使用される現場の例

防護服を使用した例は多数ありますが、代表的な事例をここに紹介します。

  1. 地下鉄サリン事件で自衛隊が使用した防護服
    1995年3月オウム真理教による地下鉄サリン事件や、山梨県上九一色村への強制捜査時、自衛隊員や警察官などが猛毒神経ガス「サリン」の危険に備えて身体全体を覆うつなぎ防護服を着用して現地に向かいました。
  2. 新型コロナ感染症対策の防護服
    新型コロナの飛沫感染を防止するため、救急車の救急隊員や患者搬送先の病院では感染症対策用のフード付きつなぎ服、医療用ガウン、手袋、マスク等を着用して治療を実施しました。
  3. 東京電力・福島第一原発事故の放射能除染用防護服
    2011年3月福島第一原発の事故の際、復旧作業や放射能除染を担当した作業員は放射性物質による暴露を防ぐため専用の防護服を着用し作業を行いました。
  4. アスベスト作業時の防護服
    アスベストを使った建築物の解体作業時に粉じんの吸引を防ぐため専用の防護服を着用しました。
  5. ダイオキシンやPCB処理の為の防護服
    有毒化学物質を処理するための専用の防護服を使用してダイオキシン、PCB処理が実施されています。

まとめ

防護服は作業者の健康や安全を守るために使用されます。建設、製造業、農業、畜産業、その他警備等における作業者の安全確保に対する意識の高まりにより、防護服需要はさらに拡大するでしょう。そして社会は、職場のすべての危険から従業員を保護する方向へ向かうでしょう。

雇用者側では、事故に伴う従業員の給与補填、病院入院時の医療費補助、及び作業停止期間の損失や社会的な信用失墜を最小化するためにさらにこの分野に予算を振り向けると予測します。そのため、ハザードに対応した新しい防護服の登場に対して常に目を配りその動向を注視する必要があります。


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